第一話 本物のどら焼き
「なんだこの食べ物は!!」
机には一口かじられたどら焼きが、無惨にも転がっていた。
「このコンビニで買ってきたようなどら焼きはなんだ、添加物が多くて食えたものではない!!。」
汗が滲むような梅雨の昼過ぎ
怒りの言葉を発していたのは、「美味しんぼ」を数話読み終わったとつ先生だった。
何気なく買ってきたコンビニエンスストアのどら焼きが、こんな事態を引き起こす事になるとは思ってもいなかった。
いや、そうではない・・・・
先生がブックオフで購入した「この本」を読む事を日課にしている事を失念していた自分が悪いのだ。
とつ先生はこの本を愛読しており一話を読み終えた頃には、いつもうっすらと目に涙を浮かべ何かを悟った「のび太」ような顔をする。
そして作中に登場する人物の言葉を真似し始めるのだ
「旦那さんが家に帰らなくなるのも無理ないな」
「一番うまい豆腐は、やはり豆腐なんだ」と。
そんな時は決まって、人工甘味料に関する知識や
夢にいつも見るという幻の大地の話もするのだが
今回の様子は少し違った。
「本物のどら焼きが食いてぇなぁ・・・」
どこかノスタルジーに浸る自分に酔いながら、こちらをチラリチラリと見ながらそう呟く
そうして机に転がったどら焼きを、先生は何事もなかったかのようにモシャリモシャリと食べ始めた。
本物のドラヤキ?
私は先生の発した言葉を理解するために、ノートパソコンのキーボードを叩く指を少し止めた。
どら焼きと言えば、通常はしっとりとした小豆餡をカステラ生地で挟んだものである。
あの甘い味と風味豊かな日本茶があれば、最高のひと時を過ごせる・・・。
私がそんな事を想像している所に、早く本物のどら焼きを食べてみたいとつ先生は厳しい言葉を私に投げかけてきた。
「もちろん出来るんだろう?」
何が「もちろん」か分からないが、古今東西の料理漫画を愛読している私からすれば造作のないことに思われた。
「出来らぁ!!」
私は威勢よく啖呵を切った。
しかし、その後とつ先生は驚くべき事を口にしたのだ
「ただし、洋風だぞ」
ここは素直に「えぇ!?」と言葉を発したい所であったが、私は既の所で踏みとどまった。
「出来らぁ!!」の言葉は、私にとって困難な壁を乗り越える魔法の言葉なのである。
その言葉を言ったからにはもう後にはひけない事は分かっていたからだ。
第2章 とつ先生、ご満悦。どら焼きの素材を語る。
「うまい、うまい!!」
とつ先生はしきりに頷きながら、美味しそうに洋風どら焼きを頬張っていた。
先生からの挑戦を受け30分後、洋風どら焼きを完成させた私もその言葉を聞き安堵する。
「うむ、このどら焼きからは作り手の愛情がひしひしと伝わる。」
「まずは生地。柔らかくふうわりとしながらも芯のある歯応えをしている、これは烏骨鶏の卵を使ったのだろう。」
「次にあんこ。小豆の日本三大産地である北海道・丹波・備中から取り寄せた小豆を選別し丁寧に仕上げてある。砂糖も和三盆を贅沢に使っており上品な甘さに仕上げてあるな。」
「隠し味の手作りバターと、何か甘いタレも有難い。」
私はとつ先生を満足させる事が出来、今回の洋風どら焼きは大成功に終わった。
満足したとつ先生はそのまま日課である「はぐれメタル探し」に出かけようとしていた。
どこか遠くで草刈機の音がずっとしている、6月某日の出来事であった。
洋風どら焼きレシピ 公開
この「究極のどら焼き」を後世まで残せるようにレシピを以下に記す。
①セブンイレブン・イトーヨーカドーにて最高級の生地を購入する
②ホットケーキを二つに分け、その間に市販の最高級の羊羹(ようかん)を入れる
③羊羹はすり潰すとよりあんこっぽくなる
④生地同士を細心の注意を払い重ねる
この工程は熟練の腕を必要とします。
⑤完成
NG集(最初は羊羹をそのまま使用していました)
次回予告
「とつ先生、はぐれメタルに遭遇」